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インタビュー「私とメンター」

同じ世界の人たちだけでなく、とにかく人と会えと

アキレス これまでのキャリアを振り返って、ご自身が迷ったり、悩んだりしたときに相談に乗ってくれた、または現在進行形でメンター的な存在の方はいらっしゃいますか。

西原 メンター的というと、2年前に亡くなられましたが、連合の元事務局長の草野忠義さんです。彼は私より10歳年上で、ほぼ同じ経歴をたどっています。日産自動車の出身で、労働組合の支部からスタートして、日産労組の本部、日産労連、それから自動車総連。この金属労協もそうで、それらの代表者を務めています。考え方の基軸となるところで迷ったとき、多くの示唆をいただきました。
 特に、日産では90年代からずっとリストラでしたので、本当に夜も眠れないぐらい悩んだ。そういったときに、草野さんは、違った観点や幅広い観点、国際的な視点などを教えてくれました。その中でも一番学んだのは、全ての判断において、時代認識を縦軸として持つことでした。レールム・ノヴァルムという、ローマ法王が世界中の司祭に通達する文書があります。1891年に出したのが、資本主義の弊害と社会主義の幻想という回勅で、1991年が、社会主義の弊害と資本主義の幻想です。 まさに、世界史的な大きな転換を非常にうまく切り取って発信している。
 これを草野さんが日産労連の定期大会の挨拶で使い、みんな驚いていました。彼が伝えたかったのは、日々のいろいろな意思決定をするときに、その時代認識の中で自分の立ち位置が今どこにあるか、過去だけでなく未来を見通すような努力をして、自分なりの判断をするということだったと思います。
 また、人の心の本質にどれだけ迫って決断できるかということも教わりました。組合員も大変な数がいて、価値観もそれぞれ違う。よく労働組合はアンケートを採りますが、行間の中に込められた組合員の本音がどこにあるかは実際に話さないと分からないのです。
 国際的な関係も含めて、いわゆる水平線上で、なるべく幅広い角度から物事を見ることも学びました。そのための考え方、軸となるための勉強を継続しろといわれましたね。それには、本を読むのもそうですが、とにかく人と会えと。それも、同じような世界の人たちだけではなく。
 彼は、こうしろ、ああしろと言ったことは一度もない。自分が考える基軸のようなものを示唆してくれる。こういう見方もあるのではないか。その上で、決めたらそのまま進めと。彼からみれば、私と全く違う方向の決断があったかもしれないですが、一切それは言わなかったですね。

写真:アキレス美知子
アキレス 美知子(あきれす みちこ)
上智大学卒業後、米国Fielding Graduate Institute組織マネジメント修士課程修了。 住友スリーエム人事統轄部長、3M Asia Pacificの人財マネジメント統轄部長、あおぞら銀行常務執行役員、資生堂 執行役員を経て、現在NPO法人GEWEL理事。「ワーキングウーマン・パワーアップ会議」推進委員、及び同会議メンター研究会座長。
アキレス それは、まさにメンター的なアプローチですね。

西原 草野さんと僕は、30年近い中で直属の上司・部下だった時期は2年しかありませんが、部下の時も非常に仕事をやりやすかった。ものすごく裁量権を与えてくれるのです。考え方の基軸は示した上で、自分で判断しろと。その上で、もし失敗したときには俺が責任を取ると言ってくれました。でも、そう言われたら取らせられませんね。

アキレス 理想的な上司ですね。部下に任せて、細かいことをいちいち言わずに、さり気なくヒントを言ってくれる。「失敗した時の責任は取る」と言われると、部下は果敢にがんばることができます。女性を育てる上でも、すごく参考になるスタイルだと思います。

西原 それは実践の中で身につけていったスキルだったと思います。もう一つは、言葉の重みというか、言葉の持つ力。一つひとつの言葉をどれだけ人に伝えるか。ローマ法王の回勅の話もそうですが、自分なりに言葉の意味を分かりやすく伝えてくれる。草野さんと話をすると、どうも自分がプロという既成概念にはまり込み過ぎて、判断の幅が狭くなっていることに気がつくのです。

アキレス 人を見て伝える方法を、考えていらっしゃったのでしょうね。

西原 国際会議でそのことはすごく重要です。日本語でさえ難しいのに、文化も背景も違う人たちにいかに伝えるか。草野さんを見るとグローバル人材ってこういうことかなと感じます。  同じ人間として、同一感が持てる部分と、文化的な背景や経験を含めた違いというものを、どう受け止めていくのかという感覚を磨かないと、これから世界で戦うのは難しいですね。

女性組合員のネットワークを広げたい

アキレス 西原議長ご自身は、メンターをしていらっしゃいますか。

西原 インダストリオールのアジア太平洋地域から女性の執行委員を3割出しましたが、そのうち一人のインドネシア女性が、僕のことをメンターだと言ってくれて、何かというといろいろ相談してくれます。あまり頻繁にお会いできないですが。労働組合の世界に飛び込んでくる女性は、結構ポジティブな方が多いのですが、それゆえいろいろな悩みや挫折もあります。どうしても文化が男社会なので。
 今、金属産業の女性組合役員に集まってもらい、女性交流集会を年1回開いています。50人位の参加者に丸1日、ポジティブアクションのあり方や、女性の労働組合活動への参加を高めるためにどうしたらよいかとか、話し合っています。それぞれ企業文化も規模も、取り組みの進み具合も違いますが、いろいろな経験交流をして、最後は、それぞれの立場の中でがんばっている仲間がこれだけいることを共感しています。

アキレス 上に行くほどプレッシャーも増えてきますから、自分だけで背負うのはあまりにも重いですよね。でもそういう場に出ていくと、自分だけじゃなく、みんな同じような悩みがあって、がんばっていることに気づく。話すことで少しだけ肩の荷を下ろすとともに、良いアイディアの交換もできますね。

西原 交流集会で参加者同士のネットワークを作って、日常的に何か活かせればと。同じ経験をしたことで、お互いがメンターになったり、悩みを相談したりと広がってきていますので、継続していきたいと思っています。


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