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インタビュー「私とメンター」

Vol.6

失敗する心配よりも、成功の喜びを思ってほしい

長谷川 閑史 武田薬品工業株式会社 代表取締役社長

「ワーキングウーマン・パワーアップ会議」(事務局:日本生産性本部)では、女性の力を活かし、組織の生産性向上につなげる動きを加速させるため、女性と組織を応援しています。 今回は、武田薬品工業株式会社 代表取締役社長 長谷川閑史氏に、ご自身の経験から「メンター」と女性の活躍への期待について伺いました。
(インタビュアー:アキレス美知子 ワーキングウーマン・パワーアップ会議 推進委員)

よりよい意思決定をする糧となったアメリカ時代のメンター

写真:長谷川閑史氏
長谷川 閑史(はせがわ やすちか)
武田薬品工業株式会社代表取締役社長
1970年早稲田大学政治経済学部卒業後、武田薬品工業株式会社入社。 医薬国際本部長、経営企画部長を歴任。1999年に取締役、2003年に代表取締役社長就任。シカゴにてTAPファーマシューティカル・プロダクツ(米アボット・ラボラトリーズ社との合弁会社)の社長を歴任するなど、海外での生活は十年以上に及ぶ。
公職:経済同友会代表幹事
アキレス 女性が活躍し、上のポストに就くためには、アドバイスを受けたり、インスパイアされるメンターの存在が重要であると思います。長谷川社長は、相談に行かれたり、アドバイスをいただいたりした方はいらっしゃいますか。

長谷川 メンターとして私に一番アドバイスをしてくれたのは、アメリカに十年いた時のパートナー会社の元社長で、自分で会社を起こした人でした。アメリカでの前半の5年はジョイントベンチャーの副社長で、後半の5年は社長を務めていました。その時、様々な問題で相談に行きましたが、大変よいアドバイスをしてもらって、それが私にとっては非常に励みにもなったし、よりよい意思決定をする糧にもなりました。彼はビジネスセンスが非常に優れているのですが、一方で、外部から相談に来る人に極めて寛容で、懐深く接してくれ、親身になってアドバイスをしてくれるなど、非常に情の深い部分がありました。
 社内では相談できない事柄もありますので、そういった悩みを抱えていた時に彼のところに相談に行くと、いつでもアポイントの時間をできるだけ私に合わせてくれ、しっかり話を聞いて適切なアドバイスをくれました。そういう意味では本当に有難かったですね。

アキレス それは素晴らしいメンターに巡り会いましたね。反対に、ご自身がメンターをされたというご経験はありますか。

長谷川 私がシカゴにいた時の人事部長が女性でしたが、彼女から頼まれて、別の会社の女性の人事部長に対して、1年間メンタリングをした経験があります。ちょうどその頃、アメリカではメンタリングが浸透してきた時で、異業種同士で別の会社の人に行うという動きがありました。
 私は入社後の最初の6年間は人事にいましたし、副社長、社長になれば、人事と常に接点がありましたので、そういったマネジメントの経験から、彼女の悩みを聞き、キャリアパスの問題などについての自分なりのアドバイスをしました。最低でも月に1回、1〜2時間、場合によってはランチミーティングをしたり、ブレックファーストミーティングをしたり。「こうすべきだ」ということはメンターとしてあまりふさわしくないですから、「自分だったらこうしたかな」と考え、最後はメンティ自身が決める問題ですので、できるだけ「自分の経験ではこういうことが効果的だったよ」という話をするようにしましたね。

メンタリングはまずはしっかり話を聞くこと

アキレス メンティが女性だったということで、気を遣われた点はありましたか。

長谷川 全くなかったですね。私も自社の女性の人事部長としょっちゅう話をしていましたし、随分助けてもらいました。アメリカでは人事をやっている人は8割位が女性です。人事制度もアメリカと日本とは違いはありますが、基本的な部分は一緒ですね。そういった経験の中で、より会社の考え方をきちんと理解して業務をやってくれる人、成績を上げてくれる人をエンカレッジする一方、能力はあるけれど、必ずしも今の会社で十分力を発揮できていない人をどういう形でコーチングするかとか、ダメだった場合にどうするかとか、私自身も非常に勉強になりました。

アキレス メンターとして、ご自身が心がけたことはどんな点でしたか。

長谷川 以前、会社でコンフリクトマネジメントのエキスパートを雇った時に、私自身もエキスパートのインタビューを受けて、自分のよいところ、悪いところを評価してもらいました。その時に、私は人の話をよく聞かない、人の話を聞いているような感じであるが、その間に常に先を考えているということを言われました。メンタリングの時には、さすがに他社の人ですから、まずしっかり聞くことにしたんです。

アキレス それはすごく良いトレーニングになったのではないでしょうか。

長谷川 ええ。私は問題解決型のマインドセットになっているものですから、解決法をすぐ言ってしまうのです。
 これは家庭でも学びましたけれど、女性の場合、特にうちの家内がそうなのかもしれませんが、いろいろな話をするんですけれど、それは何も私に解決のアドバイスを求めているわけではなくて、単に聞いてほしいということなのですね。ところが私のほうは「何でそんな問題で悩むのか。じゃあこうしろよ」とか言ってしまって、もう身も蓋もなくなってしまう。

アキレス そうなんです。多くの女性は聴いてもらえれば、それだけで半分以上は満足します。

長谷川 そこを理解するのに随分時間がかかりました。二十年位かかったんじゃないかな。でも、実行するのもなかなか難しいですね。社長になった時にエグゼクティブ・コーチをつけましたが、その時もまた、話を最後まで聞かないと言われましたよ。

アキレス メンタリングもそうですが、コーチからのフィードバックやインプットで自ら気がつくことも多いですね。

長谷川 そうですね。エグゼクティブ・コーチを受けて一番学んだことは、コーチを受ける人にこうしなさい、ああしなさいと絶対に言わないんですよね。要は「あなたはどういうリーダーになりたいですか」「その理想像とあなたの現実はどこにギャップがあって、それをどうしたいですか」という質問に対して、私自身の考えを答えないといけないのですね。言わされてしまうと、これはコミットメントになりますね。

アキレス そのとおりですね。あらゆる質問を駆使してご本人に気づいていただいて、ご本人の口から言っていただく。そうしないとご本人もコミットできません。コーチはたとえ、「こっちがいいのに」と思っても我慢強く質問して、相手の考えを引出していきます。

長谷川 それは非常に勉強になりましたね。少なくとも感情的に怒るということは、コーチングを受けてからはなくなったと思います。


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