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インタビュー「私とメンター」

常に遠くを見ること。10年後、20年後、生き残るためにはどうすべきか

アキレス その経験を踏まえられて、統合や社風を変えていく時にコツのようなものはありますか。

石塚 これは常に遠くを見ることです。2年後を考えては駄目なんですよ。5年、10年とぶつかり合うんです。でも10年後、20年後を考えたらどうなのか。百貨店業界、あるいは自分たちの会社が生き残るためにはどうしたらいいのかと。20年後、30年後の、今年入ってきた新入社員が成長していくということを考えようということが、一番大きいと思いますね。
 ただ、同じ百貨店でも、実は目指すところが違うこともあるわけですね。どういうことをやっていきたいのかを話していく中で、それは目指すところが同じだという共通点としてあったので、じゃあ一緒にやろうかという話になったんですよね。

アキレス メンターとしてはもちろん、リーダーとして、おふたりに共通の考え方があったんですね。

石塚 統合前に社員の反対もあるだろうと思って、守るべきものとして、『三越スピリッツ』という本を書いたんですね。これは統合前にあえて作ったわけです。その原点になったものは、日比翁助という三越の基盤を作った人が100年前に書いた『商売繁昌の秘訣』という本です。もう統合は決まっていたのですが、その『三越スピリッツ』を武藤さんに見せたら、電話がかかってきて、「これは非常にいい。何で実際に現場でやっていないんだ」と言われました。

アキレス 痛いところをつかれましたね。

石塚 「現場で早くやれよ」というんですね。それと、「原点となっている『商売繁昌の秘訣』というのを見せてくれ」と。そこで、年末にコピーを渡しました。そうしたら年始の6日か7日くらいに電話がかかってきて、「この本はすごい、ちょっとまとめたので見に来い」というんですね。1月の2日、3日は忙しいから、社長は現場なんか歩けないわけです。その間にまとめたというんです。A3で7枚に、左側に日比翁助が言っていること、右側に自分の考えを書いて、「全部イコールだろう。これを統合して一緒にやっていこうや。いいじゃないか」と。

アキレス 素晴らしいですね。

石塚 三越の中に統合への反対論があったから、意識してこれを使っていくということもありますが、やはり書いてあることがすごい。
 例えば、利益というものは株主に還元するだけでは駄目で、三越が三越としてあるところに使うんだと。要はお客さまの支持をさらに集めるようなこと。いろいろな商品を開発したり、投資をしたり、サービスを考えたりすることに使えということ。それから、お客さまが店頭を歩いていると、いつの間にか違う売り場に来てしまったなというふうなのが、三越の内装のかくあるべしだとか。こういったことを100年前に言っているんです。武藤さんは、今俺がやっていることと同じじゃないかと言われました。

アキレス もともとの価値観がかなり近かったのですね。

石塚 そうなんです。すごいね、という話になって、これを統合して一緒にやっていこうじゃないかと。ところが2008年の半ばぐらいから、武藤さんの体調が悪くなってしまって、どうしようかと思った時に相談に行ったところが、畔柳(くろやなぎ)さんであり、宮村さんであり、池田さん(※)です。今、私どもは社外取締役に経営の専門家ということで経営者にお願いしています。これは、統合の時に武藤さんと、われわれの統合をしっかり見守ってくれるような方を、社外取締役として3人呼ぼうと決めて、三菱東京UFJ銀行の畔柳さん、三井金属の宮村さん、もうひとりは資生堂の池田さんという、大先輩をお招きしたんですね。取締役会に来てご発言をというだけではなくて、こんなに行っていいのかなと思うぐらい、相談に行っているんですよ。通常の議題以外のことでも、「ちょっと今日はご相談に来ました」とかいうようなことを言っているので、そういう点では、メンター的な要素はありますね。会社の中の役員だと話せないこともたくさんありますから。

マネージャーだけではカバーできない。相談に乗れる斜め上の存在は必要

写真:アキレス美知子
アキレス 美知子(あきれす みちこ)
上智大学卒業後、米国Fielding Graduate Institute組織マネジメント修士課程修了。 住友スリーエム人事統轄部長、3M Asia Pacificの人財マネジメント統轄部長、あおぞら銀行常務執行役員、資生堂執行役員を経て、現在に至る。
アキレス 前回のトップインタビューでも、メンターというと、女性や若者たちというイメージがあるけれど、本当に必要なのは経営層や管理職ではないかという話になりました。

石塚 経営者に対してのアドバイザーというのは絶対に必要だと思いますね。それと、自分の部下がどういう悩みごとを抱えているのかを、マネジャーや部長がしっかり把握しろと言っているんですが、一方では、マネジャーが、パワハラ、セクハラという時に、メンバー、部下は持っていくところがないわけですね。人事やテレフォンホットラインといった制度的に持つところもありますが、自分の評価に響くんではないかと心配することもありますから、そういった時に、ちょっと相談に乗るだとか、アドバイスをするという斜め上の存在は必要なんではないかと、いま人事に話をしています。まずはマネジャーのマネジメントを強化していくことが先決ですが、そういうことも考えていかないと、マネジャーだけでは無理ではないかと思います。

アキレス 同感です。日本生産性本部で行った調査でも、メンター制度を「導入したい」という企業、または「すでに導入済み」の企業が増えています。12年度は約26%、つまり4社に1社が導入しています。女性は、職場の人間関係、キャリア、家族など、いろいろな要素で悩みます。壁にぶつかった時に、斜め上で、評価には関係なく、自分の思いや考えをしっかり聴いてくれて、アドバイスをいただける存在はすごく貴重です。

石塚 われわれの企業は、現場では女性が多いのと、それからダイバーシティであることが特徴なんですよ。フルタイムの社員から、アルバイト的な社員、それからお取引先の方が圧倒的に多い。そうした中に、実は弱い立場にいらっしゃる方も多いわけなんです。パワハラなんかはそこに出てくるんですよ。
 また、会社としては育児勤務者に辞められると困ってしまうわけですよ。せっかく10年勤めてベテランとして、ある程度、技能・知識・スキルが高くなっているところで辞められてしまうと、新しい人を採っても追いつかない。ところが現場からは、シフト勤務だし扱いが大変だからとか、忙しい時間帯に帰ってしまうという声が常に聞こえてきますね。でも、そういう人たちにもがんばって働いてもらうことが大事です。だから、現場でも、働いてもらいたいという気持ちを持たせる環境作りというのを、経営の責任としてやっていかないといけないと思います。

アキレス 今は40代、50代でも独身で働き続ける女性が増えています。ダイバーシティを考える場合でも、子どものいる女性だけではなくて、女性全体や他の従業員の実情を見ていかないと、業務負荷の問題や、コンフリクトが起きることがあります。仕事観や勤務形態の多様化もそうですが、全体的に見ていくことと、石塚会長がおっしゃっているように、先を見ることが重要ではないでしょうか。


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