TOPページ > パワーアップ会議から >トップインタビュー「私とメンター」
トップインタビュー「私とメンター」
肩に力を入れすぎないよう女性社員にアドバイス
アキレス先ほど共感力は女性が非常に優れているとおっしゃいましたが、他に女性の強みだと思われる点はありますか。細谷女性は決められたことをきちんとやってくれるので、そういう意味では優れていると思います。ただ、そのこと自体が逆にプレッシャーとなりかねないので、私は「100点満点を目指すな」とか、「手抜きをする要領を覚えろ」とか、逆に女性の完璧主義をあまり強い目標としないで、組織全体の動きに関心を持つようなアドバイスをしています。
アキレスよいアドバイスですね。どうしても肩に力が入って、疲れてしまうという女性も多いですから。
細谷講演の時には、「肩パットを入れるな」という言い方をしました。金融業界では、法人の営業は男性の仕事という思い込みがお客様にもありました。今、手を挙げてもらい、優秀な女性の法人営業への起用を拡大し始めています。最初は、「何でうちには女性が来るんだ」という財務担当のお客様もいらっしゃったのですが、今は、頼み事や宿題に女性の方がきちんとレスポンスしてくれるということで、「今の彼女がいい」という企業も増えています。
私は、サービス業を中心に、金融業では女性が活躍できない分野はないと思います。コンプライアンスなどでも女性に活躍してもらえるし、自己申告でチャンスを拡大するということに取り組んでいます。
アキレス本当に素晴らしいですね。世の中の流れを見ても、サービス業を中心に女性の強みを生かせる事が広がっていると思います。ただ、生産性本部が行っている「コア人材としての女性社員育成に関する調査」を見ると、まだまだ課題もいくつかあり、そのひとつが、女性自身の意識です。課長くらいになると、ある程度は面白い仕事もできるし、そこで満足してしまう。その次の部長や役員では、極端に数が減ってしまうのです。
細谷それは女性を活躍させるという企業に共通の悩みです。銀行の場合は、過去の女性のマネージャーはすごく仕事ができる人がなるポストだったという記憶が彼女らにあるので、自分がそのポストについたときに、そこで満足してしまうケースが多いのです。次なる上のレベルのメンター教育に力を入れているのは、そういう挑戦をやることが大事だよということです。
アキレス確かにそうですね。私も執行役員になってからは、自分が直接手を出さないでいかに進めていくか、経営の視点で全体を見る事を求められています。これも非常にやりがいはありますが、本当は腕まくりしてやりたいほうなので、ぐっと我慢しているんです。
細谷お陰様で、今600名前後の新入社員を採っているのですが、女性が活躍している会社ということが広がって、女子学生に非常に人気がある企業になっているそうです。そういう意味では、女性の口コミ力というのはすごいなと思います。
アキレス今はインターネットなど、色々なソーシャルメディアで一度に広がりますから、広告宣伝よりもよほどそちらのほうが有効かもしれませんね。
これからはお客さまの心理的な満足が競争力のポイントになる
アキレス細谷会長のようなトップがいる企業は、まだまだ日本の中では少数派だと思います。多くの企業の女性は、そういう幸運に恵まれない状況で、それでもやはり一生に一度の自分の仕事、キャリアをなんとか作っていきたいともがいたり、頑張っていると思います。そういう女性たちに対して、是非アドバイスをお願いします。細谷心を読む力から女性の強みを磨いてほしいということと、肩パットを入れないということと、それからちょっと心配な点は、女性はミクロに全力を尽くすことについてはすごく優れているのですが、やはり組織全体の文化や動きをどう共有化できるかという視点が大事じゃないかと思います。
また、高い目標に挑戦すると同時に、他の企業のことを知るためにも、色々な企業と交流をするということ。若い女性では、交流の場が大学時代の友人などに限られてしまうので、同じ共通の悩みやテーマを持っている人との出会いを作ってあげることが大事かと思います。
それから、日本は「俺がリーダーだ」というスタイルより周りが人望力に引っ張られて、フォロワーとしてついてくるという資質が大切です。そういう意味では自分自身を磨くためにも、評価の高い方と接する機会を持つとよいと思います。
アキレスそれは女性男性に限らずですね。先ほど、共感力というお話がありましたが、会長ご自身は、共感力や心を読む力を、どのように養われたのでしょうか。
細谷コミュニケーションの中から共感を持っていただくものなので、お互いの人格と人格に触れ合うような、あるいは、相手の方が話したいことを聞き出せるような思いやりを身に付けていくことが大事じゃないかなと思います。聞き上手ということです。
アキレスそれはメンターとメンティのやり取りでも本当に重要だなと私も感じています。
細谷ICTの社会になって、そういう能力が不足する若者が増えています。特にサービス業は、これまで品質や機能で評価されてきたのが、これからはお客様の心理的な満足が競争力のポイントになってきます。お客様が銀行に来て、窓口の女性と対話し、自分の判断の選択肢を示してもらって、その後もフォローアップしてくれる。その中でお客様との信頼が生まれてくるということなので、そういうスキル能力に恵まれた人材が一人でも増えるというのは非常に重要です。
アキレス日本のためにも重要ですね。
細谷生産年齢人口が10年以上減っているこの国の経済をよくするためにも、M字型を是正して生産年齢人口を増やすことが消費の拡大にもつながります。女性が成功体験を作って自信をつける、あるいは、20代の時に仮に結婚出産退職しても、仕事は楽しかったという刷り込みをできるだけしてあげたい。そのことで、結果としてM字型を是正することができると思います。
もう一つ、昨年の3月11日に想定外といわれる大震災が起こったわけですが、これからはリスクに対する直感力・予知力が、企業経営に求められると思うのです。同質性の高い、男性ばかりの集団というのは、みんなが考える想定外も同じ土俵なのです。
これからダイバーシティ・マネジメントというのは、日本の再復活のためには絶対条件になってくると思います。
アキレス今回は本当に貴重なお話をありがとうございました。これからますます女性の強みを活かせる社会になっていくと改めて感じました。
(本内容は、ご生前にインタビューをしたものです。故人のご冥福を心よりお祈り申し上げます。)
細谷 英二 (ほそや えいじ)
1945年熊本県生まれ。68年東京大学法学部卒業後、旧日本国有鉄道に入社。87年の国鉄分割、民営化作業に関わった後、東日本旅客鉄道に入り、2000年副社長。2003年6月、経営再建のため、りそなホールディングス会長に就任。
アキレス 美知子(あきれす みちこ)
上智大学卒業後、米国Fielding Graduate Institute組織マネジメント修士課程修了。 住友スリーエム人事統轄部長、3M Asia Pacificの人財マネジメント統轄部長、あおぞら銀行常務執行役員を経て、2011年4月より、資生堂 執行役員に就任。現在に至る。