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トップインタビュー「私とメンター」

音楽の世界からの気づきがビジネスの世界で活きている

平井  もう1人のメンターは、前NHK交響楽団首席クラリネット奏者の横川晴児さんです。私がずっとチェロを弾いている関係で知り合いました。彼は指揮もしますが、もともとは演奏者側で、演奏者がどう指揮者を見ているのかということを十分理解された立場から指導してくださるのです。
 例えば室内楽アンサンブルをやっていたとして、バイオリン奏者の音程が明らかに低すぎるというときに、パッと止めて「君の音は少し低すぎる」という断定的な言い方はよくありません。「自分の音が少し高すぎるかな?どうだろう」と相手を尊重したアプローチをすることで、遠回しに相手に気づきを与えるのです。音楽家はとりわけプライドが高いですから、それを邪魔せず、どうハーモニーを作っていくか、そのアプローチがとても重要だと話していらっしゃいました。
 これは、ビジネスにも通用するところがあると思うのです。最近私は、情報化社会、知識社会における新しい組織モデルは、オーケストラにあると考えています。オーケストラは同じスコア(総譜)に基づいて演奏するのに全員役割が違う。そして、指揮者は唯一舞台の上で音を出さない音楽家です。それが組織経営につながるのではないかと思うのです。

アキレス  それぞれの奏者のよいところを最大限に活かしてまとめていくのですね。

平井  20世紀初頭に巨匠と呼ばれたフルトヴェングラーやトスカニーニは、うまくいかないときに指揮棒や眼鏡を投げつけたといいますが、昔はそういった専制君主的なやり方があったかもしれません。でも音楽を醸し出すための指揮者の本当の仕事は、全員の力を引き出すことなのです。3日間のリハーサルでは徹底的に細かく練習を積むが、本番では自由に演奏をさせる。そこで予期せぬハーモニーや感動が生まれることが音楽の素晴らしさだと、横川さんが私に教えてくださいました。
 清水さんと横川さんの共通点は、持っているビジョンが壮大だということじゃないかと思います。

アキレス  そこまで目指すと言われると、関わる方もやる気になりますよね。

平井  横川さんとお会いして、彼の語り口や進め方を見ていると、自分のベンチマークとして「こういうやり方があるのか」「こういう言い回しをしたことはないな」という気づきがよくあります。音楽とビジネスという全く違う世界ですが、経営もアートだと考えると共通点があるのですね。

アキレス  素晴らしいですね。清水さんはお仕事での師という感じですが、横川さんは、プライベートの場での師なのですね。その存在が、ご自分がリーダーとしてどうあるべきかという指針となっているということでしょうか。

平井  そうですね。金太郎飴になる必要はないのですから、例えば、清水さんのやり方のこの部分を参考にして、さらに横川さんのここを組み合わせてというように、複数のロールモデルから、自分流のものを創り上げればいいんじゃないかと。そういう意味で、そういった方々と出会えて親しくしていただいているというのは、本当に財産だと思うのです。

マネジャーの男女比を全社員の男女比にしたい

写真:アキレス美知子
アキレス美知子(あきれす みちこ)
上智大学卒業後、米国Fielding Graduate Institute組織マネジメント修士課程修了。 住友スリーエム人事統轄部長、3M Asia Pacificの人財マネジメント統轄部長、あおぞら銀行常務執行役員、資生堂執行役員を経て、現在NPO法人GEWEL理事。横浜市男女共同参画推進担当参与。「ワーキングウーマン・パワーアップ会議」推進委員、及び同会議メンター研究会座長。
アキレス  貴社ではI&D(インクルージョン&ダイバーシティ)に特に力を入れているとお聞きしています。そのお話を伺えますか。

平井  私どもには3つの注力分野があります。1つはジェンダー・ダイバーシティで、シスコ・コネクテッド・ウィメン(CCW)というプログラムで運用しています。今年から、ハイポテンシャルなマネジャー候補の女性を選び、エデュケーション、エクスポージャー、エクスペリエンスという3つのEの観点で能力開発プログラムをスタートしたところです。皆さん積極的に参加していますし、役員、事業部長クラスもシャドーイングプログラムなどに協力をしています。

アキレス  面白い取り組みですね。何人参加されているのでしょうか。

平井  今は14人です。1年間で卒業して、ローテーションすることにしています。参加者はマネジャー手前、一般的には主任や係長くらいが中心で一部マネジャークラスもいます。現在、シスコジャパンの正社員に占める女性の比率は約20%でIT業界の平均と同等ですが、残念ながらマネジャーに占める女性の割合はこれよりも低いです。今後、少なくとも全社員の男女比率と同レベルまで女性マネジャー比率を上げていくことを目標にしています。具体的には、直近5年で倍増を目指します。
 2つ目は、先ほどのグローバリゼーションにも関わりますが、違う文化や価値観を持った人たちとどう協業していくかに取り組んでいます。これはクロス・カルチャー・コネクション(CCC)というプログラム名で推進しています。これだけグローバリゼーションが進み、国を超えたコラボレーションが必要になると、自宅に帰ってからテレビ会議やウェブ会議で海外の同僚と議論をする機会があります。リモートからどうマネジメントやコラボレーションしていくかが重要になりますので、そのための専門トレーニングを開発しました。お互いに顔が見えないところでのコミュニケーションは非常に難しいものです。ましてマネジメントするためには、語り口や間の取り方にも適切なテクニックを使う必要があります。そういったものを自分たちの経験をもとに作成し、昨年第1弾として全マネジャーに学習してもらいました。

アキレス  グローバルなレベルでマネジメントをすると、世界に部下がいることになります。物理的な距離があり、日本人が得意な飲みニュケーションを使えないときにどう良い関係を築くかということもテーマですね。

平井  3つ目が、女性活躍にもつながる在宅勤務、テレワークによるワークスタイル革新です。テレワークに力を入れていて、マネジャーの承認によって、全社員がいつでも可能な環境です。自分の好きなデバイスを、いわゆるBYOD(Bring Your Own Device)で接続をして、好きな環境で使うことができます。また、希望する社員には、自宅にシスコ製のルーターとビデオIP電話機を貸与し、PCを開ければそのまま会社のシステムにつながります。自宅がオフィスと同じ環境になるのです。

アキレス  グローバルな拠点間の会議などでは、日本は欧米に比べて不利な時間帯にあります。自宅で同じ環境を設定できるというのは便利ですね。

平井  今年で東日本大震災から3年が経ちますが、震災の直後にはオフィスを2週間シャットダウンしました。私どもは即座に全員在宅勤務に切り替えましたが、それでも業務に支障が出ることはありませんでした。お客様が会社にかけた電話を自宅で対応しても、お客様は誰も気づかれません。このようなテレワーク実践の取り組みが評価されて、今年2月に、日本テレワーク協会から「テレワーク推進賞会長賞」を受賞しました。


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