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開催レポート

「エンパワーメント・フォーラム2017」開催レポート

 2017年2月21日、日本生産性本部と「ワーキングウーマン・パワーアップ会議」は、都内で9回目となる『エンパワーメント・フォーラム2017』を開催した。当日は約130名が参加し、第2回「女性活躍パワーアップ大賞」表彰式、2016年の第1回「女性活躍パワーアップ大賞」大賞受賞組織による講演、今回の受賞組織による二つの分科会が行われた。

第2回「女性活躍パワーアップ大賞」表彰式

 始めに、第2回「女性活躍パワーアップ大賞」表彰式が行われ、小林いずみ代表幹事より、受賞組織の代表者に表彰状が授与された。続いて、受賞組織を代表して、日本ユニシス・代表取締役社長の平岡昭良氏が、次のように挨拶された。
 「日本ユニシスグループは、業種・業界の壁を越えて、連携することによって社会課題を解決できるということを目指して取り組んでいる。その中では多様性が重要であり、女性活躍が最重要目標である。
 今回、受賞した理由としては、社員が働く上でいろんなイベントが発生する中で、会社が支える取り組みを行っている。ここ10年で、育児休業明けの復帰率は95%をこえており、数字としても現れてきたように感じる。また働き方改革として全社員を対象とした在宅勤務やサテライトオフィスの活用を勧めており、女性社員も上手く活用している。なにより、私自身が印象深いのは、女性を中心とした新規事業を立ち上げるなど、バーチャルな取り組みをいくつも立ち上げてきた。昨年のミラノ万博で、ジャパンパビリオンが金賞を受賞することができたが、その一翼を少しでも担えたのは、女性のアイディアがあったからである。
 こうした切磋琢磨がさらなる女性活躍推進を生んでいくのだろうと思っておりますので、これからもこういった活動に向けて、積極的に取り組んでいきたい。」

 なお、第2回「女性活躍パワーアップ大賞」では、優秀賞には北陸電力、日本ユニシス、肥後銀行、オリックス・レンテック、ダイキンエアテクノ、バイタルリードの6組織が、奨励賞には、コマーム、原田左官工業所の2組織が選ばれた。

 ◆受賞企業の取り組みはこちらをご覧ください。















講演T「大きなうねりの中で、生き残る」

 次に、ワーキングウーマン・パワーアップ会議の小林いずみ代表幹事による講演が行われた。要旨は次のとおり。

これまでと違うニーズに敏感に

 テーマの「大きなうねり」とは、フィジカルな世界において台頭する保護主義とバーチャルな世界を象徴するデジタル化という、相反するものが物凄いスピードで変化してきているということである。それはバーチャルがフィジカルを超え、グローバル化が新しい段階に入り、社会のシステムが変革期を迎えている。そこにビジネスのオポチュニティがある。
 日本はイノベーション立国と言われるが、テクノロジーイノベーションには強いが、ビジネスイノベーションには弱い。新しいビジネスモデルには、テクノロジーに加え社会のニーズと合っていることが必要だが、日本は変化する社会のニーズを捉え切れていない。
 その理由の一つは、長年培ってきた日本の社会環境や教育にあり、みんなが同じものを欲しているとして、違うニーズにあまり敏感ではないことが挙げられるだろう。これを克服していくことが、今後の日本の大きな課題であると考えている。

非財務資産を活用して新しい価値を

 最近、企業の持続的成長ということが声高に叫ばれている。今までの企業の評価は、財務の結果だったが、投資家は非財務の資産をどれだけ活用しているかを見るようになってきている。非財務の資産をどう活用し、どう循環させて、社会のニーズに応える社会的価値を創造し、企業の利益につなげているかを重視しているわけである。
 非財務の資産として、注目されるのが人材である。企業にとって一番大きな資産である人材を活用して、企業の持続的成長につなげているかを投資家だけでなく、世の中が評価するようになってきている。
 テクノロジーによって環境が変われば、当然、人のニーズも変わる。その中で、企業を持続的に成長させていくためには、人材といった非財務の価値を循環させて、新たなニーズをつかみ、新しい価値や新しいビジネスを生み出していく必要がある。
 そして、同時に留意しなければならないのは、デジタル化とネットワークによって、可視化される範囲が非常に広がってきていることである。モノやサービス生産過程から、それを生産、提供する人たちの労働環境まで、消費の判断基準になり得るわけである。
 可視化された社会において、企業が成長していくためには、長期戦略・企業ビジョンに沿って非財務の資産を最大限に活用し、同時に社会にしっかり還元していくことが求められている。

社員の多様性を新ビジネスに活かす

 今、この大変革の中で必要なのは「よそ見」をして、今までと違うニーズを見つけることである。グローバルなマーケットでは、今までの私たちの価値観では、生き残っていくことはできない。ニーズはない、と思っている、あるいはこれまで目を向けらえてこなかった潜在的なビジネスオポチュニティを発掘していくことである。そのためには、私たちとは異なる価値観が求めるものを理解しなければならない。
 女性の活躍への取り組みは、実はすべての人の活躍につながるはずである。異なる価値観や、あり得ないと考えられるニーズを発掘するのは女性だからではない。大切なのは社員一人ひとりの異なる考え方や、違う価値観や視点を組織に取り込み、それをどう新しいビジネスにつなげていくかである。

講演U 「経営戦略としてのダイバーシティ推進」

 続いて、昨年の「女性活躍パワーアップ大賞」で大賞を受賞した株式会社LIXILグループの松村はるみ氏(執行役専務、人事・総務担当)から講演があった。

LIXILの取り組み

 当社は2011年4月、国内住設器機・建材メーカーのトステム、INAX、サンウエーブ、新日軽、TOEXの5社が経営統合して誕生した会社で、住宅産業、建設業の業界にありがちな完全な男性社会である。統合後、外部から藤森義明氏が社長に就任し、5年間で海外企業をM&Aで買収するなど、国内統合とグローバル化の両方を一気に進めてきた。従業員数は全世界で約8万人、売上高は約1兆8,000億円である。
 企業理念は「優れた製品とサービスを通じて、豊かで快適な住生活の未来に貢献する」ことで、リビングテクノロジー企業となることを経営ビジョンに掲げている。

トップダウンにより全社的な推進

 当社では、多様性が企業の力をつくるとして、目指すカルチャー「多様性の尊重」、「機会均等」、「実力主義」のもと、トップが全社にダイバーシティを経営戦略とする「ダイバーシティ宣言」を行い、ドメスティックで完全な男性社会の中で、多様性を入れ混ぜて、エネルギーと創造性を創出させる取り組みがトップダウンでスタートした。
 ダイバーシティ宣言の第一課題は、社員の約23%を占める女性活躍である。トップ自らが、男性として女性活躍をサポートすることを宣言。アクションプランである「We Doアクション」では、ポジティブアクションを含め、男性も責任をもって女性の活躍を推進していくとした。
 女性活躍の推進は、最初から全方位型で「人事施策」「人材育成」「環境整備」「風土醸成」とロジカルに施策を立て、最初に目標を置き、トップの号令のもとスピード感をもって成し遂げる意気込みで取り組んでいる。
 まず全社的に展開するため、ダイバーシティ推進室が事務局となって、CSR委員会に人事部会を設置し、4つの施策毎にワーキンググループを設けて活動を推進した。また、労使による検討委員会を設置するなど、スタートから全社的な推進体制を整えた。
 当社の実状からポジティブアクションが必要な段階であるとして、取組目標と結果はすべて数値で示しており、女性管理職比率は0.9%(2012年3月)から7.0%(2016年3月)に向上した。また、新卒の女性採用比率は30%以上にする目標を掲げ、3年連続で達成、2016年入社者においては37.4%が女性となっている。

人材育成の施策

 人材育成に関しては、リーダーシップ研修において女性を意識的に選抜し、女性にきちんと光を当てるようにした。育成プログラムは階層毎に体系的に進めており、一カ月に一度程度、土日を使った合宿を行うほか、自主研修や宿題、チームでのワークショップといった研修を半年ぐらい実施している。2015年度の女性参加率は22.5%であった。

環境整備の施策

 環境整備では、労使が一体となったワーク・ライフ・フレキシビリティ検討委員会において、特に育児や柔軟な働き方の制度を充実させた。育児者のワークライフバランスでは、育児休業期間や育児短時間勤務の延長、延長保育料の補助など制度内容を充実させ、平均よりも高いレベルであると考えている。この結果、毎年約200人が産休(育休)を取得しているが、ほとんど辞めずに復帰するようになった。また、育児だけでなく、介護者のワークライフバランスに配慮した制度の整備を進め、ライフイベントを抱えた社員のキャリアリターン(再入社)制度も導入している。
 そのほか、働き方、休暇に関する諸制度では、ゆとり休暇を年3日から5日に拡充したほか、誕生日や結婚記念日などのメモリアル休暇(年2日)の取得や有給休暇の取得推進など、働き方改革を進めている。

風土醸成の施策

 風土醸成では、イントラネットを活用して、「ロールモデル紹介」や、ダイバーシティを浸透・啓発するための役員による「サポーターズメッセージ」などを配信。また、オフサイトで女性が集まり、先輩女性のキャリアや本音トークを聞く場としてダイバーシティ・ミーティングを開催している(2015年度は276回)。
 特に、各職場での女性による自主的活動である「LIXIL Women's Network」では、年1回、全国サミットを開いて活動事例などを発表。職場における活動の発案者には女性が多く、業績貢献に結び付くものも多い。こうした活動成果を社内で公開し、情報共有することが重要であり、それによって互いに刺激し合うことになる。なお、サミットには、ダイバーシティの推進は女性だけのものではないとして、意識的に男性の参加を進めるようにしている。

人事施策

 人事施策として、2012年からPOD(People&Organization Development)を取り入れ、長期にわたる人材育成や能力開発に取り組んでいる。各部門長が社長と直接話し合う場を年1回設定し、能力や業績評価以外にサクセッションプラン(後継者育成計画)として、優秀な女性を発掘し、能力発揮の機会を付与することで、女性の育成を進めている。女性管理職比率や新卒の女性採用比率の向上もPODによるものである。
 また、女性活躍の場となっているのが、全社シックスシグマ活動である。こうした改善活動は、研修と同様に女性が参画しやすく、職位を超えたフラットな人間関係をつくるのに適していると考えている。シックスシグマ活動でも、意識的に女性リーダーを30%以上にするため、女性の参加を促し、プロジェクトリーダーへ導いている。
 

「We Doアクション」施策

 アクションプランの「We Doアクション」では、ワーキングマザーの声を反映させた施策を策定し、イントラネットを通じて、産休・育休を経てもキャリア形成ができるようサポートしている。
 産休・育休に入る人に、出産前のマインドセットや、子育てをしながら復帰する不安を軽減するサポートプログラムも用意した。また、職場で上司に聞きにくいこともあると言う声から、相互に積極的なコミュニケーションが図れる工夫もしている。

ビジネス面における効果

 ビジネスにおける女性の活躍事例としては、衛生問題からトイレの普及に貢献したいという女性がケニアに行って、排水設備のないところで子どもたちへのトイレの供給に奮闘しており、会社としてもその活動をバックアップしている。そのほか、女性による商品開発や、シックスシグマ活動による利益貢献も大きく、その情報は社内に発信し共有化を図っている。
 女性の活躍推進に5年間取り組み、女性の自主的活動も活発になるなど、次第に軌道に乗ってきた。今後は、同じサイクルを回しながらスパイラルアップし、ダイバーシティ1.0から2.0に移行する段階と考えている。