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開催レポート

パネルディスカッション「女性活躍を組織の生産性向上につなげるために」

 次に、「女性活躍パワーアップ大賞」受賞組織の中から2組織の登壇のもと、パネルディスカッションが行われた。
 登壇者は、株式会社LIXIL HR Diversity&Engagement部長 谷亘氏、株式会社三越伊勢丹ホールディングス 人事部人事企画担当長 牧野欣功氏、「ワーキングウーマン・パワーアップ会議」代表幹事でANAホールディングス株式会社、サントリーホールディングス株式会社、三井物産株式会社社外取締役の小林いずみ氏の3名。そして、コーディネーターは、同会議推進委員でNTTコミュニケーションズ株式会社常勤監査役の小林洋子氏である。

 始めに、小林いずみ代表幹事により、次のように、問題提起があった。
 「今回の応募から感じたことは、特に首都圏の大企業では、各社の取り組みがかなり進んでおり、フルラインで施策が用意されている。一方、中小企業では、各社各様の現場の事業に近いところで、どうやって女性活躍を推進し、日々の業務の中でどう活用していくのかというところで、ユニークな取り組みが行われている。大企業では、どんな施策をしているかより、実際にどういう結果を出しているかをみた。伺いたいことの1つは、様々な施策がある中で、そこにスタッフの方がどのように魂を入れているかである。
 もう1つは、首都圏だけでなく地方における現場の事業、支店、支社、取引先、子会社に対してどのような影響を及ぼしているのか、あるいは、本社と同じような取り組みがどのように支社や支店、子会社に対して提供されているのか。」

〜LIXILの取り組み〜

 まず、LIXILの取り組みについて、谷氏より次の通り説明があった。
 当社が女性活躍推進に取り組みはじめたきっかけは、2011年に国内の住宅設備機器メーカー5社が統合したときである。異なる文化、風土を持った社員が、グローバル競争に勝ち抜ける企業文化と社員の活力を増大させる人事基盤を確立するために、ダイバーシティを企業文化にすることを目指すことだった。まず、全社員の約23%を占める女性社員にフォーカスした。女性管理職比率はわずか0.9%と非常に低く、本来の力を発揮できない状況の打破を優先課題として始めた。一番のポイントは、トップが戦略として積極的に推進したことにある。それは、「多様な人材の自由闊達な議論から創出されるエネルギー・創造性を経営に活かし、強さの源泉にする」という強い思いがあったからである。
 まず、一気にカルチャーを変えるために明確な数値目標を立てた。当初、現場からは「候補がいない」「そもそも女性社員が少ない」と否定的な意見しか上がらなかったが、優秀な女性の発掘にあたり、「探してきた人たちにどういう機会を付与していくのか」をトップと部門長が話し合い、育成して登用したことで、現場へ本気度が伝わり、大きく潮目が変わった。トップが使う表現で、「脇がつるくらい背伸びをして中指の先がかかるか、かからないかのところに目標を置く」という言葉があるが、それは能力を開花させるためには「ストレッチ」の機会を意識的に行うことが必須であるという思いから使われている。また、フォロー体制も重要と考える。実際に、昇格した女性管理職へ、トップとCHRO※自ら、意図を徹底して話すラウンドテーブルミーティングを行い、フォローアップを欠かさなかったことで、期待に応える活躍を見せている。
 ダイバーシティに魂を込めるためには、推進する立場の人間が明るくなければならない。「我々が動くことで何かが起こる」「女性たちが笑顔で働ける」このことこそが、チームで成果を出すことにつながっている。HRは、ダイバーシティのチームだけでなく、事業の人事も含めてチームを組んで施策に落としている。その事業の人事も含め、前向きで明るく、ネガティブなことを言われてもポジティブに返すことが非常に重要である。
 具体的な施策のひとつに、「まぜて育てる」リーダーシップ・トレーニングがある。その中の、エグゼクティブ・リーダーシップ・トレーニングでは、役員から部長が参加するが、その中に女性は必ず2割以上を参加させるよう工夫している。上位層になると女性比率が少なくなってしまうため、課長になるかならないかの女性も参加させている。リーダーシップ・トレーニングは、約6カ月から8カ月の長期間で行われ、最初は男女にも差が出ているが、終了する頃には女性の方がリーダーシップを発揮しているという事実がある。また、女性の成長を目の当たりにすることで、男性の意識改革の一因にもなっている。
 当社は小さなグループ会社を多く持ち、そこに対するダイバーシティの推進を本体が中心に行っているが、地方の事業所でセッションを行う場合に、「管理職になりたい」、「東京に行って一旗上げたい」という人だけではないので、「よりいきいきと楽しく働くためにあなた自身がやることは何か」と身近なところに焦点を合わせて考えるように、グループ会社を始め全国の支店、営業所で進めている。
 今回、私どもが評価いただいたのは、「スピード」だと認識している。他社の皆さんと一緒に働き方を考えて作っていくことが、これからの我々の向かう先ではないかと思う。
※CHRO・・・Chief Human Resources Officer

〜三越伊勢丹の取り組み〜

 続いて、三越伊勢丹の取り組みについて、牧野氏から説明があった。
 三越と伊勢丹が統合し、2008年に三越伊勢丹ホールディングスが設立。その後2011年に事業会社である三越と伊勢丹が統合した。歴史や強み、風土が異なる企業の統合により、新たな価値を生み出そうという中、人事部は主に人事制度の統合を進めてきた。経営トップが経営戦略のキーワードとして「人財」「戦略人事」という言葉を繰り返し発信し人事の重要性を打ち出していることを受け、2012年度に人事ビジョン「三越伊勢丹グループで働く従業員が持てる力を最大限に引き出し、伸ばしていける体制作り」を掲げた。この人事ビジョンを実現するため、まずは「一人ひとりと向き合う姿勢」をベースとした人材育成フローを構築。女性をはじめとする多様な人材の活躍推進に向けて、自律的なキャリア形成支援や人材育成の仕組み構築に取り組んできた。
 当社の事例は、グループの中核会社である(株)三越伊勢丹が中心である。従業員が約12,000名おり、7割が女性である。また、従業員の半数が契約社員で、特に店頭で日々お客さまと向き合う販売業務の中心を担っているのが、そのうち約2,500名の月給制契約社員(メイト社員・2016年4月以降、入社初年度より無期雇用化)である。メイト社員は9割が女性。このメイト社員を中心とした女性にどう活躍してもらうかが、重要なポイントであった。
 人事ビジョンに魂を入れるために取り組んだポイントは3つある。
 1つ目は、採用〜育成〜CDP・人事異動〜評価という一連の人材育成のフローに対し、人事部門がシームレスで取り組んでいく。人事部門が縦割りにならず、一連の人を見る精度を上げることを重視してきた。
 2つ目は、登用・昇格・研修等さまざまな機会をできるだけ公平に提供し、従業員が自分の意志でチャレンジができる場をより多くすることを意識した。
 3つ目は、キャリア面談である。人事部ではキャリアの節目にあたる従業員年間約1,000名と1人約45分のキャリア面談を行い、自身の中長期的なキャリアを考える機会を提供している。現状の悩みやキャリアイメージ等をヒアリングし、アドバイスすることを通し、一人ひとりのキャリア意識の醸成や人材情報の把握に繋げている。また、ここで得た人材データは人事制度改訂の仮説検証にも繋がっている。
 3年前からは対象を社員の係員層に、2年前からメイト社員に広げ、今年度からは時給制契約社員の希望者に対しても面談を行っている。個と向き合っていることが、さまざまな人事の取り組みを進める上で最大の武器となっている。
 その結果、従来管理職の登用試験に消極的だった短高卒の女性が、キャリア面談を機に、登用試験にチャレンジし、管理職になる事例が非常に増えた。この3年で管理職登用者のうち4割が女性となっている。
 会社が公平な成長機会を提供する一方で、従業員は真剣にキャリアを考え、自律的に学ぶという好循環ができつつある。
 また、国内外グル―プ企業への人事改革の拡大に関しては、グループ共通の横軸で展開させることを考えている。企業の枠を超えた人材交流の拡大や、グループ企業からの首都圏研修・出向も本格化させている。また次世代人材を中心に、ホールディングス人事部によるキャリア面談も実施。グループ最適の人事配置や登用に繋げている。さらに2016年度からは、従業員のライフイベント(結婚・介護・配偶者の転勤等)に応じた希望に伴い、異なる地域の三越伊勢丹グループ内企業へ転籍できる「グループ内継続雇用制度」をグループ一律で導入した。グループ共通で充実させていくのが向かうべき方向である。

〜推進する上で、苦労したこと〜

 さらに、女性活躍推進で苦労したこと、抵抗勢力などの有無について、それぞれから次のような話があった。
 谷氏は「国内外の企業が統合してできたことで、中には女性活躍推進に抵抗する者もいたが、担当者のHRがダイバーシティ推進を非常に明るく進め、活躍し輝いている女性社員を見ることで、興味を持つ人が増え、意識も変わったと感じる。」
 続いて、牧野氏は「女性活躍推進をはじめとする従業員のキャリア形成支援を進めるにあたり苦労したことは、人事部自体の意識改革である。まずは人事部が従業員一人ひとりと向き合う機会を拡大することから始めた。キャリア面談を軸としながら、徹底的に個と向き合ってきた結果、人事部が管理的ではなく、一人ひとりと向き合い、対話をして、アドバイスをくれる部門であり、現場の声を吸い上げ、改善や解決に繋げて働きやすい環境づくりに取り組んでいる部門であるという現場の理解が少しずつ深まってきている」と述べた。

〜男女関係なく、よい人材が集まる持続可能な会社へ〜

 最後に、小林いずみ代表幹事は、次のように述べた。
 「高齢化社会になり、よい人材を採用することがますます難しくなっている。その中で、女性への対応や採用について施策を行っている会社とそうでない会社で二極化が進むであろう。女性を登用して活躍できる会社には、男女関係なくよい人材が集まる。女性の活躍の成果がいろいろといわれているが、中長期で見ていくと、企業にとって持続性の問題になる。一方働く女性へ伝えたいことは、今抱えている問題にこれまでにはなかったソリューションができてくるので、自分で自分の壁を作らないでほしい。常に未来志向で、解決方法を自分でもできる限り努力して探す。会社に頼むだけでなく、自分の壁は自分で破る。自分の人生は自分で決めるという姿勢を持って頂きたい。」

 そして、小林洋子コーディネーターから、パネルディスカッションのまとめとして、以下のように締めくくった。
 「女性の活躍推進と働き方改革は、セットでないと実現できないと思う。また、ビジネスの営業目標や事業計画は、ぎりぎり頑張って届くか届かないかのところに設定しているのに、女性活躍推進に関しては「達成できる」数値目標を掲げる会社が多い。この先、10年〜20年以内には、仕事の半分が人工知能やロボットに代わられるといわれている。女性活躍推進にチャレンジングな目標設定を行って本気で取り組んで成果を出していく企業は、適応力が高いので、どんな世の中になっても、変化を先取りして勝ち残れるのだと思う。今日ここから始まるということで、沢山のヒントを持ち帰って頂きたい。」

 プログラム終了後には、「女性活躍パワーアップ大賞」受賞者、「ワーキングウーマン・パワーアップ会議」推進委員、参加者による交流会が行われ、活発なネットワークづくりが図られた。


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